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士農工商の序列は、武家社会の為ではない。
封建の為にあるのでもない。
この序列こそはじつは人間そのものの序列にほかならぬ。
最も人を卑しめるのは商なのである。
(五味康祐著私は『柳生武華帳』全7巻の初版本を筆頭に五味康祐のチャンバラ小説は全冊揃えているというのに、その忠実な読者に対してなんという言い草だ。
そう言えば、時代小説や時代劇の世界では、善玉はつねにモノを創造する農民や職人で、私のように利ざやで稼ぐ商人はつねに談合で物価をつり上げる悪玉役ばかりだ。
江戸時代に生まれなくてよかった。
でも残念ながら、モノをつくり出す美しさ、その美しさを利用して儲ける商ゆえに商は美しくないとする呆れた三段論法は、五味康祐だけではなくて、いまも日本人全体に染みついてある香具師ではないか)を主人公としていたが、そのとり上げ方はしかし非日常的、見世物的労働との対比でやたら理想化されていたっけね。
いまも残る商人蔑視とは、モノをつくることではなくてモノを右から左へ移動させることでしてしまう傾向がつよいので困ってしまう。
小売特有の必要以上にへりくだった卑屈なものの言い方なんてその象徴だ。
私のところの商品コピー入門指導は、この卑屈コトバの排除から始めないといけないくらいだ。
放っておくと、初心者はみんな「お客様のために限定50個をご用意させていただきました」みたいな書き方をしてしまう。
「お客様」と言えば、いっときCI(コーポレート・アイデンティティ)ブームというのがあって、「お客様第一主義」という奇妙なスローガンが多くのサービス産業を席捲したことがあったけど、あのときは笑っちゃったな。
本気でお客様を第1義に置いてしまったら、そんな企業はたちまち倒産してしまうのにね。
どうしてそんな倒錯したスローガンが生まれてしまうのかと言えば、「われわれお客様はご主人様で小売者のお前たちはご主人様に奉仕する下僕だ」と錯覚している消費者が多いせいだろう。
この錯覚を逆手にとって消費者をひたすらご主人様扱いしてみせていい気分にさせ、財布のひもをゆるめさせる高等戦術が「お客様第一主義」だったわけだ。
あ、やっぱり商人は悪賢いか。
消費者はご主人様、小売者はその奉仕者。
小売商人の自己卑下を生み出しているこの主従意識は、一体いつごろから生まれてきたのだろう。
三波春夫さんが「お客様は神様です」と言ったせいだろうか。
そんなわけないね。
昔々の消費者は小売者と対等だった。
昔々の物々交換とは、消費者が生産者や小売者と一体化していたスタイルだった。
主従意識が発生したのは、おそらく階級が発生したからだろうね。
王侯貴族に代表される富裕層が出現したあたりから、ご用聞き一小売商人への差別が生まれた紬んだと思う。
よくは知らないけど。
この差別化を逆手にとって有効活用したのが百貨店だった。
「お客様第一主義」の第1号は百貨店だった。
貧しい庶民を貴人のようにうやうやしく出迎え、「ご休憩」のための食堂や「お子様」のための遊園地まで用意する百貨店における買い物のハレ化とは、まざれもなく庶民に富裕層だと錯覚させる擬似環境だった。
小売だった。
であれば、つくるモノに託してつくり手の自己を表現できるけれども、利ざやをテーマとする小売の世界ではしょせん自己なんて表現できないよという諦観。
ある商品に消費者が感動したとする。
そのとき、消費者の感謝や評価はもっぱら「つくった人」に向けられる。
「いい商品、つくってくれてありがとう」。
たまに心やさしい消費者がいて、「いい商品、売ってくれてご苦労さん」と言ってくれるが、それはあくまでも、ついでの評価、ま売るためにあずかっただけだものね。
しょせん、売り子のおいらたちは下僕としてお仕えするだけが自己表現なのさ。
いや、最近では、「いい商品、つくってくれてありがとう」という「つくった人」への感謝すら薄れてきたようだ。
最近の「ご主人様」の中にはけっこう軽率な人たちがいて、「価格破壊、大好き」と口走っては目の色変えて価格の安い外国産ばかりに群がるじゃないか。
おかげで「農」の食糧自給率はどんどん下がってしまうし、「工」の工場はどんどん途上国に移ってしまうじゃないか。
七〇年代以降、次から次へと登場する新商品やお買い得特価にとり囲まれて、「人生の目的は買い物だ」と考えるのが当り前みたいな人たちが生まれてきた。
いつごろからか、私たちを言い表すコトバは「国民」でも「市民」でもなくて、「消費者」になってしまった。
どうしてこんな状況が形成されてしまったのだろうと考えたとき、「消費者」をご主人様扱いする「消」識をもつところから始まるのだ。
ついでに言っておくと、「1品目多機種型の売り場」も、小売の自己卑下、自己表現の放棄から生まれてきたものだった。
「ご主人様のためにどっさり集めてまいりました。
どうぞ、お好きな商品をお遊びください。
えッ、私めの意見を申せとおっしゃいますか、滅相もございません」私の言う小売ジャーナリズムは、こんな自己卑下の脱却から始まる。
わが国通信販売の始祖、津田仙の商品はとうもろこしの種で、私の商品はコーヒーの豆。
わが国の通信販売も明治9年から128年経過して、とうもろこしの粒からコーヒーの豆にまで成熟してきたと言うべきか。
いや、通信販売に託した自己表現という視点で言えば、私はまだやっと津田仙のスタートラインに辿りついたばかりだから、128年の時空を越えて二つの粒と豆がめぐり逢ったと言ったはうがいいのかもしれない。
企業の自己表現は、自己主張型と自己確認型に分かれるように思える。
津田仙の場合は自己主張型だった。
初めに農業近代化という理念があって、その実現のために仕事を起していくタイプ。
平たく言うと、「志」を優先させられる経済的精神的余裕がスタート時点にあったケースだ。
一方、妻子を養うためにとにかく稼がなくてはいけなかった私の場合は自己確認型。
「稼ぐ」に熱中しすぎた『超音波洗顔器エレンスパック』の失敗以後、「稼ぐ」で正気を失っている部分はないかという強迫観念が私を掴まえて離さなくなり、しじゆう、正気を確認していないとには、私と同じような自己確認型が多いはずだ。
たとえば、経済同友会に憲法問題調査会という会があって、わが国を代表する大企業の会長、社長、役員がぞくぞく委員に名を連ねて活動している。
この会の目的はどうやら憲法9条を改えていこうというこの会の提唱は、明らかに衣食足って礼節を知るようになった企業人たちの自己確認だろう。
おカネ儲けだけでは生きていけないように人間はつくられているのだとつくづく思う。
しかし、企業単位の自己確認1自己表現はいきなり横並びでつくれるものではないだろう。
く。
その結果として生まれた態度を個別におのれの消費者に表明していく。
その上で企業同士で連帯していくのなら私はこういう会のあり方に賛成するが、はじめから「みんなで渡れば自己表現もこわくない」では真の自己表現にはならないのではないか。
長いものには巻かれろだった戦前の企業人たちの過ちをくり返すことにならなければいいけれど。
とくに政治テーマの態度づくりに際しては、企業内の反対意見に対する公平な扱いや情報公開を大切にしていかないと、企業の自己表現が反対意見の封殺に化けてしまう。
企業ぐるみの選挙応援だって企業の自己表現だ、と言って言えないことはないわけで。
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